2024/02/05 13:49

『町の本屋という物語 定有堂書店の43年』奈良敏行著・三砂慶明編(作品社)

https://sakuhinsha.com/japan/30137.html



昨年1月に閉店を知り、定有堂書店「読む会」の皆さんと何かできないかと話し合いました。出版社でもないのに、編集者でもないのに、奈良さんから頼まれたわけでもないのに、定有堂書店の本を作りたいと思いました。どうしても。

 

定有堂書店の「定有」という屋号は奈良さんが学生時代から愛読していたハイデガーの言葉「ダーザイン(実存)」に由来する哲学用語です。だから出版社はハイデガーの名著を刊行している作品社でなくてはと思いました。奈良さんの本を作りたいという想いを受け止めて下さった編集担当の青木誠也さんには感謝しかありません。

 

力強い推薦文は『熱風』で奈良さんのことを取材して下さった本屋「Title」の辻山良雄さんです。「ラジオ深夜便」で辻山さんが定有堂書店のことを「人口が少ない地方の町でも、書店がその町の中で、文化の拠点になりうることを証明した店」だと話していたのが忘れられません。本当にその通りだと思いました。

 

本書の装画は、奈良敏行さんとともに定有堂書店を支え続けた奈良千枝さんです。

定有堂書店らしさをふんだんに取り入れた装丁は、soda designのタキ加奈子さん。タキさんが本書の装丁を引き受けてくれたおかげで、定有堂書店のもっとも大切な思想を実現することができました。それは「手作り」です。

 

2023418日に、定有堂書店は閉店しました。

でも本書で、私たちが伝えたいと思い願ったことは、終わりから始まる物語もあるということです。定有堂書店は、ある一人の本好きが、本好きな人たちが集まる場所を作りたいと願

って作ったユートピアでした。奈良さんが作った本棚の向こうに広がる「本屋の青空」。

 

本を読み、本について語り合う場をつくり、並べた本について語ることで、文化が生まれる。当たり前のことかもしれませんが、このことを43年間、愚直に心を尽くして、愛情を注ぎ続けたのが定有堂書店でした。もし、あなたが本が好きで、本屋が好きなら、奈良さんの言葉に耳を傾けてみて下さい。

 

読書室 三砂慶明拝